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突然ですが、年間救急搬送される人数をご存知ですか?
なんと約600万人です。その内、住宅内での転倒・転落などによる怪我の搬送人数は200万人というデータがあります。
さらに、高齢者が怪我で年間救急搬送される人数は70〜100万人。その内55%の30〜50万人が住宅内で起きています。安全だと思っていた家で、事故がこれほどまでに多い現実…大切な家族が、家の中で大きな怪我をすると、本人だけではなく家族みんなの人生が一変してしまいます。
家の中では転倒や転落など、思わぬ事故につながる要因(=ホームハザード)がたくさん隠れています。だからこそ、オーパススタイルでは「住宅内で起きる事故を予防して、家族が安全に暮らせる家」により強く取り組んでいます。
「安全持続性能」を提唱したのは、株式会社HAPROT 作業療法士のヨシローさん(満元貴治さん)です。ヨシローさんは、作業療法士の経験から、「安全に、ずっと安心して住める家」がとても大切だと考え、この基準をつくりました。
私たちのまわりには、「地震」や「雪崩(なだれ)」などの自然災害のほかに、家の中での「転んだ(転倒)」「落ちた(転落)」といった日常の事故=日常災害があります。
こうした日常の事故は、いきなり起きて大きなケガにつながるわけではありません。実は、「小さなヒヤリ・ハット(インシデント)」が300〜600回くらい起きると、そのうち1回は大きな怪我や事故につながると言われています。
【日常災害が起きるまでの5つの流れ】
1. 環境の欠陥 → 家の中に段差があったり、すべりやすい場所があったり、危ない場所がそのままになっている状態
2. 管理の欠陥 → 危ない場所があることに気づいていない。または家族や住む人に伝わっていない
3. 不安全な状態 → まだ事故は起きていないが、安全ではない状態
4. 事故の発生 → 実際に転倒・転落をして、怪我をする
5. 重大な日常災害 → 大きな怪我や後遺症が残るような重大な事故につながってしまう
【加齢による変化】
項目 | 内容 |
筋力が弱くなる | 立ったり座ったりがゆっくりになり、重い物を持つのも大変になる |
バランスがとりにくくなる | つまずいたり、ふらついて転びやすくなる |
感覚が鈍くなる | 段差やすべりやすい場所に気づきにくくなる |
視力が落ちる・暗さに弱くなる | 明るいところから急に暗いところへ行くと、目がすぐに慣れず危ないことがある |
認知機能の変化 | 物忘れをする。電気をつけ忘れたり、物の場所を思い出せなくなる |
これまでの家づくりでは、家庭内の事故に遭いやすい「子ども」や「妊婦さん」への配慮がまだまだ足りませんでした。でも、本当に安心して暮らせる安全な家とは、子どもから若者、高齢者まで、どの世代にとっても安全な家です。
【妊婦さんや子どもが怪我をしやすい理由】
・妊婦さんは、お腹が大きくなることでバランスをくずしやすくなり、普段は問題ない階段や廊下でもつまずく可能性がある
・ホルモンの変化で集中力や注意力が下がり、ちょっとした段差が危険になることもある
・子どもは、行動が予測しにくく、やけどや転落などの事故が多く発生する
家の中が「ちょっとしたミスでも大丈夫」な設計になっていれば、親も子も安心ですよね。住まいの安全対策は、妊婦さんだけではなく、お腹の赤ちゃんを同時に守ることになります。
「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」という言葉を聞いたことがあるかと思いますが、「安全持続性能」は、それらをより広い視点で捉えた新しい考え方です。
もし転倒や転落によって骨折してしまった場合、家の構造に問題があると、退院後これまでのように自宅で生活することが難しくなるケースがあります。その結果、本人だけでなく、家族全体の生活にも大きな負担がかかってしまいます。
後から急にリフォームが必要になった際、時間の制約だけではなく、身体的・心理的な負担も少なくありません。また、バリアフリーに関するリフォーム費用は一般的に「100〜200万円」が相場とされており、経済的な負担も大きいです。
さらに、認知症のある方にとっては、住環境の大きな変化が混乱を招きやすく、かえって生活の質を下げてしまうリスクもあります。そのため、はじめから高齢者にも配慮した設計にしておくことが大切です。
【安全性(転倒・転落の予防設計):5項目】
・玄関:上がりかまちの段差有無、靴の脱ぎ履きのための椅子や手すりの設置
・階段:手すり、足元灯、踏面の滑り止めの有無
・階段の段差:勾配、踏面や蹴上の寸法
・スキップフロア:段差の有無と、安全に昇降できる工夫
・収納・換気システム:フィルター交換などが安全に行える高さや位置の設定
【持続性(安心して長く住み続けられる設計):8項目】
・土間収納:車いすやベビーカーの収納スペースの確保
・1階廊下:車いすや歩行補助具の使用を考慮した幅の確保
・トイレ:扉の開き方、出入り口の幅、手すりの設置、全体の寸法
・ユーティリティルーム:家族構成やライフスタイルの変化に対応できる多目的空間
・室内干しスペース:洗濯物を干す負担や動線の軽減
・洗面室:椅子や歩行補助具が置けるだけの広さ
・照明:リモコン・人感センサーの有無
・温度環境:断熱性や冷暖房効率を考慮し、健康を損なわない室温の維持
ヨシローさんは、『転倒リスクが増すと恐怖心が出る。恐怖心が出ると人間は動かなくなる。』と語っています。体を動かすことが減ると、ますます筋力が落ちる。すると、さらに転倒しやすくなる。こうした悪循環を断ち切るためにも、住む家そのものを安全にしておくことが大切です。
項目 | 内容 |
踏み面の広さ | 22cm以上あると、足をしっかり乗せやすく安全 |
手すり | 片側だけでなく、両側にあると転落防止に効果的 |
段差の高さ | 1段18cm以下が理想。高すぎるとつまずきやすくなる |
滑り止め | すべりにくく交換しやすい素材を選ぶ |
足元の明かり | センサーライトや足元灯を設置することで、夜間の転倒防止に有効 |
項目 | 内容 |
引き戸 | 開け閉めしやすく、バランスを崩しにくいため推奨 |
スペース | 車いすでも使えるように広さを確保 |
手すり | 便器の横に設置し、立ち座りの動作をサポート |
配置 | 廊下や寝室から近い場所に設置して、夜間の移動も安心。便器は扉と並行に配置 |
項目 | 内容 |
上がりかまち | できるだけ低くして転倒リスクを減らす |
手すり | 靴の脱ぎ履き時のふらつきを防ぐ |
椅子 | 座って靴が履けるようにベンチなどを設置する |
スペース | 椅子の設置や車いす、ベビーカーの収納スペースを確保した土間 |
項目 | 内容 |
換気システムの位置 | 高すぎると掃除のときに踏み台が必要になり、転倒の危険がある |
収納の高さ | 高い棚は物が落ちやすい。取り出すときにバランスを崩しやすく、転落リスクが高まる |
防災用品の位置 | いざという時すぐ使えるよう、手が届く場所に置くのがベスト |
項目 | 内容 |
照明 | リモコン操作やセンサーライトにすることで操作性と安全性を両立 |
暗順応 | 明るい場所から暗い場所へ行くと目が慣れるまで時間がかかるため、足元灯など照明の工夫が重要 |
温度差 | ヒートショックや熱中症を防ぐために断熱性を高め、空調を利用することで室温を一定に保つ |
項目 | 内容 |
椅子を置ける広さ | 歯みがき・化粧・着替えのときに座れるスペース |
車いす対応 | 将来、足腰が弱くなっても使いやすいようにゆとりある設計が理想 |
ライフステージ | 活用方法 | 内容 |
子どもが小さい頃 | 子どもの遊び部屋 | おもちゃを広げて自由に遊べる空間 |
子どもが小学生以降 | 勉強部屋(学習スペース) | 親の目が届きやすく集中しやすい環境 |
子どもが中学生~高校生以上 | 趣味部屋・書斎 | 読書・ゲーム・作業など多目的に活用可能 |
子どもが独立した後 | 寝室 | 将来、1階で寝る必要が出たときにも対応可 |
Q.バリアフリー対応の施設のようなデザインになってしまうのでは…と心配です。
A.そんなことはありません。手すりや引き戸など、安全のための設備も、今はデザイン性の高いものが豊富にあります。見た目もナチュラルやスタイリッシュな空間にすることは十分可能です。設計段階から意匠性と安全性を両立したプランを考えることで、安心して暮らせるだけでなく、おしゃれさも兼ね備えた家づくりができます。
Q.安全持続性能を取り入れると、自由設計に制限が出ませんか?
A.大丈夫です。「安全持続性能」を踏まえた上で自由設計を進めることで、より快適で使いやすい住まいをつくることができます。また、すべての基準を完璧に満たさなくても問題ありません。日常災害が起きるまでの5つの流れの②管理の欠陥「危ない場所があることを家族が把握できている」だけでも、事故を防げる可能性はぐっと高まります。
Q.安全持続性能を配慮した家づくりをするとコストアップするのでしょうか?
A.設計段階から安全持続性能を取り入れることが、大幅なコストアップとはなりません。もちろん手すりの設置や階段の寸法などで多少の追加コストはかかる場合もありますが、将来的にリフォームするよりも費用を抑え、家にあったデザインを選ぶことができます。